oldboy-elegy のブログ

ずいぶん長きにわたりグータラな人生を送ってきたもんです。これからもきっとこうでしょう、ハイ。

oldboy-elegy (2)   彼のせいで学校に呼び出された母。着物に日傘のいでたち、教頭、担任の前で、紫煙をプカリ



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 母は一生のほとんどを着物で通した人。だが小学校6年間を通じて授業参観、運動会、学芸会など来たことがない。もっともoldboy-elegy君、「来なくてえ~」の一言で「あらそ、わかった」と。
ただしネガティブな事での呼び出しには「私の専任事項」とばかりにおいでになった。
一度、集団(10人ほど)で山に柿泥棒に行った事があった。
翌日、運動場での朝礼のおり「参加したものは一歩列から離れなさい」のアナウンス、oldboyくん、反射的に列から離れていた。
保護者としての母が呼び出されるハメに、もちろん正装の着物姿であった。

しかし卒業式だけはおいでになった、もちろんこれも着物姿で。講堂の大きなドアの脇に所在なげに立っていらしゃたのを今でも覚えてる。ここでは私の行状も含めて母の事もお話しておこうと思う。

                                                                          

 やや長じて、確か中学2年のころの体育の授業でのこと。
まだ体育館もプールも当たり前ではない時代である。
いまにして思えば、母が呼び出しを食う遠因もこの悪天候の中にあったのかも。
運動場は連日の雨で水浸し。
当然、授業は教室での座学に変更。
教室は暗く、みんなの気持ちもなにやら鬱状態である。

 そうこうするうちに、始業ベルがなり授業が始まる。
山本(仮名)と言う新任の体育専門の先生である。
新任と言っても結構おじさんで頭髪もやや後退、そう、さらば草原よ(アデオス・パンパ・ミーアAdios pampa  mia) 状態の方であった。
代用教員の先生らしいと噂があったのだが本当のところは知らない。

 風采も上がらず、いわゆる生徒たちに舐められるタイプである。
そんなもんだから、授業もザワザワ状態で規律が取れてないのは誰の目にもハッキリしている。
こんなときの生徒たちは余計に残酷になるものです。
教室の後ろのほうでは立ち歩いているやつもいます。
先生自身も屈辱感と大きなプレッシャーの中で教壇に立たれていたのではないでしょうか。
ただダンマリのまま黒板に向かいスポーツ用語やルールなどをセッセ、セカセカ書きこんでおられました。

 そんな時、教室の後ろのほうから誰かが「もっと大きな字で書いたれや、暗ろうて見えへん言うとるぞ!」と全く敬意の欠片もない言葉が放たれたのです。
先生の心はもうブルブル・わなわな状態だったと思います。

 この時の僕の席は先生から見れば教壇机のある中心から1列左がわの最前列でした。私(oldboy)が不幸な目に合う原因の一つはこの席位置も大いに関係していたと思うのですが、どうでしょうか?

 この言葉のあと教室の空気が急に険悪になるのです。
そう突然です。
先生は、黒板拭きを手に取り、黒板の大部分を占めていた自分のチョーク字を猛烈な速さで消し始めたのです。
先生、完全に切れた瞬間でした。
黒板の字をノートしている子も、いくらひどい雰囲気とは言え、一定数いたことは確実です。
すぐにブーイングの嵐が巻き起こったのです。
oldboy-elegy君などはもともとノートなど取ってないのにブーイングに参加していた、悪いやつです。

 この後不思議なことが起こったのです。
この喧騒の中、なぜそうなったのかわかりません。
そう突然、何の前触れもなく教室内に完全な沈黙が流れたのです。
ほんの数秒のことだったと思いますが、喧噪の後の一瞬の完璧な静寂。

 50人以上のクラス全員がこのパーフェクト・サイレント状態に完全にシンクロしたのです。
ひょっとしたら、集団心理のひとつで学問として言及されているかもしれません。

 僕も含めて教室内の全ての者が今度はこの完璧な静寂に気が付き反応したのです。
急に机をたたいて、足を踏み鳴らしながら、この不思議な現象に一転して爆笑の渦。

当然?、oldboy-elegy君も足をバタバタ、机をバンバン、大口を開けて・・・・。


 今にして思えばすこし度が過ぎていたかもしれません、
ここで自分だけに特別な不幸が到来するとは予想だにしていませんでした。

 そう、僕を見ている先生の目、尋常ではありません。
理性の片りんも感じません。
一瞬「ヤベー」と思ったのですが時すでに遅し。
そう目が合ってしまっていたのです。
つかつかと真っすぐ俺に向かってくるアディオス・パンパ先生、万事休す。
俺の席の前に立つなり、情け容赦の欠片も感じない憤怒の表情の中で、げんこつを俺の頭上に振り下ろしたのです。

 ここでまた問題が。
oldboy-elegy君、あろうことか反射的に避けてしまい、先生の渾身の鉄拳はなんと空を切りおまけに机の天板をドン。
もうこうなれば先生も人の子、逆上に逆上を重ねて、俺の首をヘッドロック状態で抱え込み、空いた右手でポコポコポコ、さらにボコボコ、後で聞いた話では悲鳴を上げた女生徒もいたそうな。

 oldboy-elegy君、今でもみんなを代表して殴られたと思っている、もしくはもうすこし離れた席ならこうはならなったかもと思うのだが、どうだろうか。
でもよかった事もある、気に入っていた女子の一人がハンカチを水で濡らし手当してくれたこと、これ。

 このあと、授業が続いたのかどうか記憶がとんでいる。
まあ俺も49%ぐらいは悪かった思うが、どうだろう。

 しかしこの出来事をクラス以外の者に喋ったことはないと思うし、もちろん母親にも何も話してない。
はなしたところで「あんたが悪い」と言われることははっきりしている。
ところが翌日の授業終了時、担任が明日両親のどちらかに学校へ来てほしいと耳元でささやかれたのである。


 ここで母親の出番である。
俺の直接の保護者は母親であった。
母と父は姓が違う、oldboy-elegy君は勿論母の名字である。
いわゆる私生児と言う身分である。
それ故か母は「ここは私の出番よ」とばかりに意気軒高のご様子である。
「私生児」と言う言葉、今ではあまり言わなくなり、耳にすることもほとんどなくなったように思う。


 俺は小学校時代を含めて3回ほど良くない事で呼び出されている。
しかし俺をかばってくれたことはない、すべて人前では「お前が悪い」の一言で終わりである。
こんな折に何時も出ばってくるのは「母」である、自分の専任事項のように。

 
 そんなことより俺は母が学校に来ることをあまり喜んでいないし、彼女もそのことを心得ていた。
でも俺は母が好きであった。
ほかの子の母親など見ると何もかもが違っていた。
普通に見られる、親子の「デレデレ感」など「俺たち母子」には無縁のものであった。
母の服装は当然、和装であった。
まず母親の洋服姿は夏場以外見たことがない。
ほとんど着物姿であり、家事労働の折は着物の上から真っ白い割烹着をはおっていた。

 授業参観などには来たことがない。
そのかわりあまり良くない呼び出しにはきっちり応じてくれたし今日の事もそうである。
しかし前日に何があったのか聞こうとしなかった、「行けばわかる」の一言である。


 あすは必ず(着物姿)であろう。
子供心になぜか年寄り見えてしまう。
でもそれも、中学生のころには何とも思わなくなった、むしろ凛とした雰囲気がわかってきたoldboyくんである。


 もう一つ彼女はたばこをやる。 
家にいるときはキセル、外出時は紙巻たばこである。
キセルもきざみタバコの葉を詰めるのではなく、両切り(フィルターのない)たばこをはさみで二つ三つに切りわけ、それをキセルに差し込み吸うのである。


 あんのじょう彼女、古式蒼然とした着物姿でやってきた。
ご丁寧にベージュ色の日傘もさしてきた、手には小物入れの信玄袋。
一昨日にくらべ今日は打って変わった晴天である。

校長室脇の応接室に通され、俺は外で待機。
しばらくすると俺も呼ばれて中に、担任それに教頭もいて何故かニコニコしている。
親がこのこと(教師の暴力事件として)を問題にするかどうかが心配だったらしい。
だれが事の顛末を話したのかは知らない。
その心配は必要が無いとわかりホットしたとこのようである。

 母は大方「息子が悪い」と言ったに違いないと確信はあった。
ここで彼女が唐突に、「灰皿使わさしてもらっていいですか」と。
彼女、こんな折でも我慢はしない。
しんせい(たばこの銘柄)をヒトサシ指とナカ指の先ではさみ、背筋伸ばし天井にむけて紫煙をくゆらせる姿は何か手前味噌だが恰好が良い。
ちょっとした姐御の雰囲気ではあるがなんせここは学校。
前では先生二人が異種のいきものを見るようにキョトンと眺めていた。

 

                 了

                          oldboy-elegy

 でもよかったこともある。
「気に入っていた女子の一人がハンカチを水で濡らし手当してくれたこと、これ」の文が記事中にあるが、これがTenko(女性の名)であった。

これらの記事は各々別物であり意図したものではない、しかし微妙に関連していることで面白い。

 oldboy-elegy君の記事などなんの足しにもならないが、ただ読んでいる時にも「誰にも言えないが実は、あの時」「あいつ(昔の恋人)今頃どうしているんだろ」「実はこんな面白い経験したな~」などほんの数分、数十秒でも誰知れず思い出し、ニヤッとするのもまた、人かもしれない。

 

 

 

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