oldboy-elegy のブログ

ずいぶん長きにわたりグータラな人生を送ってきたもんです。これからもきっとこうでしょう、ハイ。

oldboy-elegy(8) 初めて社会に出て働き始めたころのお話 ・ 10か月の現場研修と工場労務課でのこと。

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長期の貧乏旅行から帰ってきた時、飼い犬の(ホス)に自分だとすぐに認めてもらえなかったのが心外であった。


                  
              


  昔は良かった」式の記事を書くつもりは全くない。

ただoldboy-elegy君が新米社員として働きだした頃(約半世紀前)と比べて今、何が、どう進歩したのかを見るのも面白い。
ただ便利さの発達が文明とするなら恐ろしいほどの変化である。
反対に文化的要素に必要なある種の(無駄?)余裕(自由度とも言える)などが文明(インターネット、スマートホン、これからのAIの発達)により少しずつ削り取られていくようにoldboy-elegy君、感じてしまうのだが、どうだろう。
結局、文化とは人間が感じる(幸せ)感覚かも知れないと思うのだが?。

 結論は出さず、見たもの、体験したことを論評を加えず淡々と書きたい。
全てが昭和のアナログ的幻影の中での風景である。


 ただ彼の経験も限らた枠の中の小さな世界での現実でしかない。
なにかを示唆するものではない、ただそんな時代だったとelegy(哀感)を感じていただければ、このブログは半ば成功したも同然と思う。


 
 
大学4回生(関西風の呼び方)の夏休み近く、oldboy-elegy君いまだに就職先決まらず。
決まるも決まらないも当然、就職試験なるもの1社も受けた事がないのである。
「ああ~じゃまくさいなあ~」の気持ちが優先しているのである。
こんな業界、給料は、労働環境は、このためこんな勉強をしてきたなど考えもつかない不良分子である。

今ならこんなフトドキものは「即死刑」に値する。
母子してずっと貧乏してきた割には相当のノー天気野郎である。

 oldboy-elegy君、今、頭の中にある思わくは就職の事ではない、学生生活最後の
夏休みをどう過ごそうか、の思いのみである。
一時、留年も 考えたが家や母の事を考えればこれは出来ない相談だと、幻影から
払拭中である。

そこで閃いたのが夏休み中の(長期貧乏旅行)のことである。

  「よし決めた、半月ほど何処かに旅に出よう!!。そしてこれを踏ん切りに冬休みまでにどこでもいいから就職を決めてしまおう」
これが彼のめったにしない「一大決心」の図である。


 塾のほうにはありていを正直に話し20日間の休暇を快諾?してもらっている。
その上餞別として5000円いただいたのである。
「年末賞与(ボーナス)先渡しでな、土産いらんよ」と塾長のお言葉である。

旅の話はここでの趣旨から外れるのでまた何時か記事にしても良いと思っている。
そこそこの距離を無料で乗せてもらったタクシーの話、旅館の布団部屋で一緒になった山梨の女子大生など、いろいろあった。
ただ帰って来た時、飼い犬の(ホス)に自分だとはすぐには認めて貰えなかったのが心外であった.
因みにホスの名は、当時、放映されていたアメリカ西部劇ドラマ「ボナンザ、カートライト」の次男か三男かの名からoldboy-elegy君の妹が拝借し、名付けたのである。
晩年の犬の「ホス」は映画のホス役通り「太っちょ犬」に変身。


 どうした訳か彼の通う大学の夏季試験は7月を目一杯使い実施される。
他の大学の事情は良くは知らないが、多くの場合7月の中旬には夏休みに入り、前期の試験は9,10月に行われるとの話である。

 oldboy-elegy君、早秋の頃には珍しくその姿をキャンパスに見ることができた。
就職課の通路の掲示板をのぞきに来たのである。
彼にしては珍しく本気に見えるが、どうであろう。
しかし内心「やだな~、いやだな~、じゃまくさいな~」が本音であるのは変わらない。

 そんな中、先週から見ている募集案内が気にかかる。
従業員数700人弱(現業員・工場労働者を含む)、資本金1億弱、業態は繊維メーカー他)、どうも同族経営の会社らしい、会社の名が社長と同じ、設立年から見れば2代目いや3代目かなと推察。
出世、本当に本当、考えた事もない、oldboy-elegy君らしく自然体で生存できたらokぐらいにしか思ってない。

 そのまま就職課の事務所に入り、簡単な推薦状と卒業見込み書を貰い会社に送付、
そして今日が入社試験の日である。

 それでも工業高校、高専、大学、合わせて約20人ほど、東京の大学生も数人、これらは関西出身の人らしい。

※上記の高専の設立年などを考慮すると存在が疑わしいと思う。記2019・7・18このまま消去することに後ろめたさを感じるのでこのような方法で訂正さしていただく。


試験は作文と面接の二つだけである。
oldboy-elegy君気に入った事が、それは作文の表題が自由であったことである。
内容はむしろ仕事のことなどから離れてくれたほうが良いとのこと。
おそらく内容も当然だが、むしろ誤字、脱字、文章の脈絡及び文章力重視だなと想像する。

 書いた作文の事は今でも覚えている。
「為政者が使う言葉、美しい、美しい国土、美しい人々にご注意!!」これがお題である。
内容は為政者に真っ向反論の内容である。
まあ、これで落とされるな、と想像するに難くない。

基本oldboy-elegy君融通が利かない人である。

 これで落ちればある意味納得、通れば子供扱いされたも同然であり、それも寝ざめが悪い。

 それがどっこい受かってしまったのである。
あなたはまだ青い青いと言われている感じがしたものである。
「いや~大人の世界って」な感じで妙に気に入ってしまう、単純なoldboy-elegy君であった。

 入社日がなんと4月の中旬、大学の友人たちはすべて3月中に初出社、少し不安を感じるぐらいおそい出社日である。
おまけに研修期間がおよそ10か月、配属は来年だそうな、またまた戦力外通報。
なに故10か月も研修を、大企業でもあるまいし、と思ったのだがやがてその実態が判明。


 各事業所、2つの工場、本社を含む支店営業所の全て回るのである。
大卒の新入社員は原則一人ずつ、工場などでは全員が一緒になることもある。

 ここで思ってもいなかった工場労務課での研修内容を幾つか紹介しょう。

 工場労務課研修での話 NO.1

  実は研修期間中、ここでの研修が一番興味深かったし記憶に残った物であった。

労務課長や課員の下での研修である。
この工場には約400人前後の女工さんが勤務していてそのうち約半数が工場内の寮住まいである。

 基本的に朝は座学で午後は実習と言う事になっていたが、初日から予定変更、各寮棟の屋上の物干し場のロープの張替えをする事になっているらしい。
工場の機械関係の部門から男性2人、借りての作業となる。
あとロープだけでなく、屋根部分にある波板の取り付け部分の保守強化や気が付いた部分の修理など、結局午前中いっぱいの作業となった。

 課員のYさんの話、「この作業中なにか気が付いた事ある?」との質問にみんなキョトン顔「??」。
そこでYさん「今日は天気も良いし洗濯日和でしょ」と誘導の言葉。
「そういえば洗濯物が一枚もかかってなかったな」とだれか。
「そうこの作業の日程は一週間前に女工さんの代表者さんと綿密に相談されていて、今日は洗濯、物干し禁止日なんよ」とYさん。
満艦飾の女子の洗濯物が干されている場所に入ることは問題だからね、それに各寮役員を通じて広報したほうが自分達のこととして徹底されるでしょう。

 oldboy-elegy君何故か妙に納得、「一生寮監でもいいかな」の思いがチラチラ。
すぐに気が変わるのが彼の特性、ほんに軽いやつ。
なにより(400人の若い女性が)の思いが心の奥底に存在しているのではなかろうか。
数字で追われる職場より俺向きかも。
誰かが「この労務課も新人補充の希望を申請します?」
「いやー、それは知らないよ、マッチングの問題かな、君たちの誰かがここを希望することが出発点で、それからは本社の考え次第、」との事。
「まあ憶測でものを言ったらダメなんだろうが、会社としては、非生産部門に大事な新入社員を回す余裕など、どうだろう無いのと違う」とYさん。
内心すこしがっかりのoldboy-elegy君。


工場労務課研修での話NO.2

  「去年の今頃は大変だった」と課員のYさん、少し遠くを見る目。
「じつはここの女子入寮者の内20人チョットが近くの夜間高校に通学しているのだわ、ある日屋上の物干し場に夜間高校の制服が4着が足で踏みにじられ、側溝に捨てられると言う事件があったのよ、ま~起こるべきして起こった事だわな、結局犯人は分からず、労務課としても一生懸命に犯人捜しした訳でもないのよ、以後寮役員、高校通学生、労務課、時折工場長も出席しての話し合い、計5,6回ぐらいやったかな。
始めは相当険悪状態だったのが少しづつ双方ほぐれていって、最後に犯人捜しもしないまま「手打ち式」に、労務課としてはこの席ではほとんど聞き手に回ったのが良かったと言うより、これしかなかったのよ」とYさんしんみり。


工場労務課研修での話NO.3

労務課員のYさんからの頼まれ仕事で、正式な実習とは違う。
「oldboy-elegyさん、今度の土、日、予定あるの?」
「特別にはありませんが、何か?」
「×××県の○○へ出張なのよ課長も一緒に一泊で、勿論経費は会社もち、日当も多くはないが出るよ」
「???」と彼。
「先に言っておくわ、馬力、荷物運びなんよ、この話勿論課長も了解得てあるし」
「それなら僕より腕っぷしの強そうなやつが~」と言いながら「分かりました、私で良けりゃお手伝いさせてもらいます」と前言を翻し了解する彼。

 荷物の中身は、写真、手紙、会社からのお土産、金一封、などなど、これらはなんのための物か、判る?
感の良い読者諸兄なら解りますよね。

 現地ではすでに幻灯機や8ミリ映写機などが手当てされているんだとか。
九州離島の〇〇と中国地方の〇〇には、この会社の労務出張所が置かれているとの事。
つまり女工さん勧誘の為の最前線基地なのである。

 しかしこれらは会社の労務出張所ではあるのだが看板を掲げ会社の人間が常駐しているわけでもない。
多くは、土地の教育関係の名士(退職した元校長や教頭)などの人脈を通じて情報を得、勧誘していただくのである。
なにやら危なっかしい話であるが、もし会社のマイナス情報があれば現地で広がり、人員の確保は難しくなり、また地元名士の肩書も地に落ちることになる。

 ただ近年、日本経済が活況を呈すればするほどに、こう言う形での人員確保は難しくなりつつある。
oldboy-elegy君、おそらく学校におれば、この様な現実を知らないまま、目にすることもなくノー天気に過ごしていたのだろう。

 これでお分かりになったと思う。
そう年に一度、温泉旅館へ近辺出身の女工さん達の親、兄妹等、近親者を招きちょっとした宴会を開き、会社は預かっている娘さん達の近況報告をするのがこの場の趣旨でもある。

 当日、親、兄弟、じっちゃん、ばっちゃんからはたまた親戚と称する人たち50人以上の縁者が集まり盛況であった。
有名でもない我々の会社、でも真心と誠意でもって貴方たちの娘さん、お姉ちゃん、お孫さんを預かっていますよ、と言う口コミ期待のアピールなのであるそうな。

労務課員のYさん大忙し、持参したアルバムから我が娘の写真見つけて、焼き回しのリクエストの照合とメモに追われている。

 Yさん「まずは寮生なら多分写真を見ればどこの誰それと言えるはず、と胸を張る。
もうこうなれば、利潤追求の為の会社組織ではあるが、今の彼はそのことを超越している、ある意味幸せな御仁である。
しかしその強い思い入れのため、その人たちと会社との間での軋轢に苦悩することもあろう事は想像に難くない。
このことの話はYさんとはしていない。

 それはそれ、今は汗をかきかき親御さん達の写真のリクエストに応じるYさんを見てoldboy-elegy君、少し目頭が熱くなる。
こう言うことにはoldboy-elegy君すこぶる多感である。

工場労務課研修での話 最終話 NO.4

 毎月25日は給料日である。
銀行振込ではない、明細書とともに現金の手渡しで、受領印を給料台帳に捺印してもらう義務がある。
この日に限って工場の門外で起こる定番の現象がある。
これが推察できれば大した人である。
4,50人はいただろう、人の群れである。
年代は千差万別、母親らしき女に手を引かれた幼児もいる。
チンピラ風のあんちゃんもいる。
その風体は千差万別である。
  
工場の終業のサイレンがなると、門外の群衆がこれを合図に門前に移動する。

 ここに集まる人たちは、ほぼ寮生とは関係はない、通勤する女工さん達の関係者たちである。
わざわざここに来なくとも、彼女の家なり、アパートに行けば良いのにと思うが、そこがそれチョットばかり訳アリでそれぞれ事情違うのである。
なかにはここの方が都合が良く便利な人もいるだろうが、大部分の人たちは女工さん達からすれば会いたくない存在なのである。
ならば工場の門前で待ち受けるのが最善の方法である。
時間も場所もここならはっきりしているし逃す訳もない、そう逃れようがないのである。

 女工さん達の給料をあてにイクバクかのお金を無心に来た人たちなのである。
やがて頑丈な鉄骨で作られた門扉がしまる。
出入りは門衛所の脇の小さな出入り口だけである。
ただ門扉も人が出入りできないだけで内、外は丸見えである。

 ところどころで大きな声での罵り合いが始まる。
これを門内の衛所脇からじっと心配そうに眺めている人がいる。
労務課員のYさんである。


         あとがき
 研修はこの後も延々と続く、そして配属と配属先、そして労働内容(時間外労働も含む) など機会があれば記事にしてみたい。


最後に驚いた事、営業職など、タイムカードなし、課長の机上の出欠簿に認め印のみ、それも女性事務員に三文判を預けて俺の代理で押印してくれる、良いか悪いかは別。
組合は二つの上部団体に加入?
営業職も時間外労働は基本禁止、時間になると照明が落とされる、どうしても必要なら、上司に申請許諾を受ける。
30分毎に時間外手当が支給されていたことにも驚き、この程度の中小企業としてはマアマアの待遇ではなかったろうか。
半世紀経ての今と比較しても通用するのではないのか。
世間知らずのoldboy-elegy君としては文句はないが、世間の一般会社の事は知らない。

               了

              oldboy-elegy