oldboy-elegy のブログ

ずいぶん長きにわたりグータラな人生を送ってきたもんです。これからもきっとこうでしょう、ハイ。

oldboy-elegy (15)ソウル(Seoul)暮色   官吏の横暴・闇の両替商・この部屋を予約する理由・ベルボーイの視線の先

 

 
 彼、井野(仮名)さんに初めて会ったのは、韓国ソウルの零細商社がホテルに迎えによこした社用車に相乗りしたのが最初だった。

 以後長い付き合いになる。

 そう彼とは同宿(ホテル)
の身であった。

oldboy-elegy君より10~15歳くらい年上だと思うが、今思い起してみても、互いに正確な年齢の

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事は聞いた事が無かったように思う。

 左のイラスト画像が、当時の彼の風貌、印象に酷似しているので使わしていただいた。
ただしネクタイ姿は印象にはな。

 彼、井野さんとは、取引上の付き合いは全く無かったが、ここ韓国での、商習慣、彼等の考え方等いろいろの局面で知恵をいただいた。

 いわゆる「ウマが合う」と言うのか、良くしていただいたのである。
ただし彼は当方の会社のことはある程度、御存じであったようである。

 彼を知ってる人は彼の事を「一匹狼」「ソウルごろ・ゴロツキの事」「情報や」「利権や」など悪く言う人もいたが、oldboy-elegy君にとっては温厚な人柄で、頼れる人との印象は崩れる事はなかった。

 「ソウル暮色」として今回、四つほどのエピソードを取り上げた、折々に「井野さん」が登場される。



   この記事は、以前「oldboy-elegy(6) 戒厳令下のソウル(Seoul)」の続きのつもりで書いている。
あの時は空港税関の手荷物検査員などの小悪(少額賄賂)を記事にした。
その記事からもう半年になる、長い間うっちゃったままになっているのが胸のつかえとなっていた。

 あの頃は、ブログがどんな物かは想像できなかったが、今では、少しは気持ちに余裕ができ書けそうな気がする。
出来事に関しての良し悪しの判断は一切せずに、見たまま、感じたままを素直に綴るのみで、「嫌韓もの」とは一切関係はない。
当時の韓国の市井の「人々」「情緒」「雰囲気」などに、貴方の身を置き、それも併せて、楽しんでもらいたい。

★1   第一話 官憲と露店商人
下級官吏が路端で小商いをする老婆の野菜を入れたザルを足蹴にし、路上にぶちまける。

 夜のとばりが降りたばかりの明洞(ミョンドン)は雑踏の中にある。
この地域は今も昔もソウル、いや韓国で一番の繁華な街(ディストリクト)なのである。
仕事を終え、タクシーや仕事先の社用車でホテル近くまで来ると雑踏を避け乗り捨てて歩くのが一番である。

  oldboy君、雨でも降らない限り、新世界百貨店前(シンセゲイ・ペグファジュム・アぺ)あたりで降り、ぶらぶらと街の喧騒と雰囲気を楽しみながら、ホテルに帰るのが常であった。
 そんな折、あまり見たくもないこんな光景に遭遇したことがある。

 白い、いわゆる韓服(チマ・チョゴリ)姿の老婆がデパートの前、道路脇の歩道の街灯の下で大きな竹ザル2個に青物の野菜を一杯にして小商いをしていた。

 oldboy君、この光景を目の端に入れながら通り過ぎようとした時である。
何処から出て来たのか分からないが、紺色のズボンに白いシャツ、頭には同じ紺色で、ひさしの付いた制帽、シャツには何のマークか分からないが、両肩に肩章が厳(いか)めしく乗っかっている屈強な男二人が、あろうことかいきなり老婆の売り物の野菜が入った大きなざる2個を足蹴にし歩道にぶちまけたのである。

oldboy君、一瞬凍り付き、その場に立ちすくむばかりで、何が起こったのか理解できずにいる。

 おばあさん、なにやら大声で叫び、二人の男達に、つかみかかり、食ってかかっている。

日本でもしこんな光景を見たら、おばあさんの身の上がなにやら哀れで、理不尽な男達に「罵声の一つ」でも浴びせたくなるのが普通の想念であり感情だろうが、今ここで見ているのは何であろう。
不思議なのが、繁華街を行き交う人々の多くが、全てとは言わないが、この出来事に比較的無関心なのである。
oldboy君、歩みを止め、この衝撃的な光景に「あんぐり」、だが通行人にとっては、
「氷ついたかの様に突っ立っている」俺の姿の方が、非日常の景色であるかのような雰囲気である。

 ホテルに帰り、遅くに「ホテルに帰宅」して来た井野さんにインスタントコーヒーをいただきながら聞いてみた。
「それ警官やは、明洞一帯の露天商の所場代、めちゃめちゃ高騰していて、そこの権利だけの売り買いもすごい事になっているらしい、利権争いも半端ではないと聞く」
続けて「そんな場所でのそのおばあさんは多分、無許可、無賃の露店行為やから、皆、醒めて見ているのとちがうんかな、まあそれでも、我々日本人と基本、情緒が違うからな、なにがあっても普通その二人の警官が真っ先に非難されるのが日本やろな」

 oldboy君、今は、そんな現場からそそくさと離れ、デパート前から横断歩道を渡り、明洞側からこれを見るとはなしに見ている、まだ気になっていたのである。
おばあさんは散乱した野菜をひろい集め、ザル2個を頭に乗せ手を添え、去って行くまで目の端で見ていた。

 この日、ベッドの中でも、老婆の残影が消えない。


★★2  闇の両替商

 ホテルを背にして前の一方通行を右に数丁行けば、先ほどの「新世界デパート」に、左にすこし歩けば、ここにも「デパート」がある、名前は「美渡波」だったか「美登波」だったのかは忘れた。
「新世界デパート」は韓国一の、業容を誇る老舗店(戦前は三越・ソウル店)であるが、この「美渡波デパート」は似ても似つかぬ「しょぼくれデパート」である。
いわゆるビル全体が「店舗貸し・テナント」で小売店の集合体であるらしい。
その業態は、昔、大阪にあった「千日デパート」のようなものである。

 実はこの得たいの知れぬ「デパート」もあの「井野さん」の紹介で、訪韓の折、必ず1・2回くるのがoldboy君である。
それでも、一階の飴色の金属枠扉は高級感漂う重厚さがある。
この重々しい両開きのスイングドアーを押し開き中に一歩入ったなら景色、雰囲気が一変、4、5坪程度の朝鮮人参店ばかりが結構広い1階売り場全体を埋めているのである。
読者の方は知っておいでかどうか知らないが、朝鮮人参の化粧箱は基本、赤色が中心であるから、この空間の異様さは特別の感がある。

 もちろん「朝鮮人参」を購入するために教えてもらった訳でもない。
読者諸兄はお分かりかな、そう闇の「両替商」も、これら店の裏の顔なのである。
井野さん曰く「まあ5万円も両替したら2万ウオンぐらいトクになるんかな、なあ朴ママ」と女性店主に、念を入れる様に目配せする、すべて日本語である。
「もし人参のみやげ買うなら、ここで買ったらいいわ、これほど粗悪品掴まされる品物あらへんからな」と井野さん。
朴ママ、ニコニコ首を縦にふりふり「よろしくね、まかいしといて」となまりの無い日本語でoldboy君にご挨拶。

 いらい両替は、よもやま話を含めてこの朝鮮人参店でやっている。
そのおり、濃いこいーいコーヒーが出でて来る。
朝鮮人参は以来、頼まれ物で何回か買い、日本に持ち帰っている。
人参そのままの形状の物は買ったことはない、顆粒状の小袋入りのもので、母は一度口にしたが、それきりである。


★★★3  第三話  いつもこの部屋を予約する理由

 

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 oldboy君、この日も無事仕事を終えホテルにご帰還。

レセプションカウンターでキーを受け取り、自分の部屋に。
日程が決まれば直ぐに、日本から予約を入れるのだが、それでも時折満室で、
1日だけだがよそのホテルに宿泊することがある。

そんな時の手配は全て定宿にしているこのホテルがやってくれる。

 基本的な日用品やはては電気スタンドまで段ボール1箱にまとめてホテルカウンター裏の小部屋の一隅に預けて帰国する。
何故か、ホテルの照明、oldboy君にとってはルクス不足に感じてしまうのだが、
彼だけの感覚なのか、わからない。

 予約する部屋は決まっている、4階エレベーターホールを出て右に、長い廊下の突き当りを鍵型にさらに右に、そして一番奥の右側の部屋がお気に入りなのである。
それには、oldboy君なりにキチンとした理由が存在するのである。
まず、ベッドの広さがダブルである事、普段、布団で寝ている身にとり、この贅沢は何にも代えがたい感覚なのである。
次に、突き当りの部屋であるので廊下を行き来する人が、向かいの部屋の宿泊客以外は皆無なのが嬉しい。

 最後に、この部屋が気に入っているもっと重要な事がoldboy君にはある、さてそれが何かお分かりかな。
「火災の恐ろしさ」に関係がある。

1971年の師走、クリスマスの朝に出火、200人近くの人々が亡くなった「大然閣ホテル火災事故」が起きている、そんなに昔の事ではない、火災現場もここ明洞(ミョンドン)からそう離れていない。

「大然閣ホテル火災」の死者の多さの原因は、22階という、高層造りで、火の回りが
異常に早く人々は火炎に追われ、飛び降りた事とされている。


 そこでoldboy君の投宿しているホテルの4階の廊下の突き当りには、鉄枠、両開きのガラス窓が、設えられていた。
開けるのに、何の造作も要らぬ。
ただし安全に関する備えは全くない、外付けの非常階段は勿論、避難用縄梯子(はしご)は無論、一筋のロープさえ無いのである。
ホテルの名誉のために言っておくが、21世紀の現在の話ではない、40年以上昔の状況をお話しているのである。

 だがこの窓のすぐ下は、アスファルトの地上ではなく、お隣の、3階建ての有名中華料理店の大屋根なのである。
通常時、この大屋根に飛び降りろと言われれば、運動音痴の彼にはちとしんどいが、いざとなれば、「やれん事はない」程度の高さなのである。
そう、この事が「この部屋を気に入っている」一番の理由でもある。

 「お前、小心者すぎるやろ」と言う人もおられるかも知れないが、何も手間暇(てまひま)かかるものでも無し、「自分の意識の奥にインプットしておくだけのこと」で安心感が違う、「夜は高イビキ」で眠れるということである。

 
★★★★4  第四話  4階廊下に10人ばかりの男女、わいわい、キャーキャー
      と辺りかまわぬ嬌声の中

 暮れなずむ夕日の中、oldboy君、やや早めにホテルにご帰還である。
今日、井野さんのお誘いで、「新村・シンチョン」ロータリーの「兄弟カルビー店」での食事会にご招待。
繊維会社の会長さんである「張・チャン」さんと言う方の招待である。
ビジネスの用向きでなく、「久しぶりに会って、楽しくお話しましょう」、が主旨とのこと。
当然、oldboy君の同席は了解済みのことである。

 井野さん曰く「この張会長はきれもので、出身は北朝鮮の平城(ピョンヤン)近郊の村、特筆されるのは戦前の日本が設立した「平城師範学校卒」との事。

 のちにoldboy君、何が気に入られたのか不明だが、ビジネスとは関係なく、幾度も食事のお誘いを受けている、中でも特筆ものは、彼の会社行事のハイキングにも参加したこともある。

 早朝、ホテルの部屋の呼び鈴がなり「誰だろう?こんなに早くに」と出てみると、そこに出勤途中の張さんが立っておられ、「昨日会社で山登りに行き、これを買いました」とリンゴ4~5コの入った竹ザルを土産に手渡されたこともある。
二つ下げておいでになるので、今から上階の井野さんも訪ねられるのだろう。


 彼、張さんに就いては、いずれ一つの記事として書くつもりである。
oldboy君が知る朝鮮、韓国人の中で、唯一無二の知識人だったかも知れない。

 

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 さて、井野さんとの約束時間まで少しある、ルームキーを受け取り、自室に手荷物を置きに戻るため、エレベーターで4階に上がる、扉が開くとベルボーイの黄(ファン)君が仲間のもう一人のクロークとホールの横に置かれている簡易机の横に立ち、二人して同時にoldboy君みる。
イラスト画像のベルボーイ君は赤色、詰襟姿であるが、黄(ファン)君はやや濃いベージュ色だったと記憶している。

 ファン君、困り顔で俺を見て、通路、廊下の奥を指さし、oldboy君に懇願の様子。
廊下突き当りの角部屋の前で10人ちょいの男女が「ワーワー、キャーキャー」と大騒動、アルコールも入っているらしい。

 その嬌声の中から、日本語も聞こえてくる、男は皆、日本人であるらしい。
ファン君「別にいいんですが、もう少し静かに、部屋の中でと、頼んでいただけません」と遠慮がちにoldboy君にお願いする、顔には「日本人同士のよしみで」と、無言のプレッシャー。

 僕ちゃん(oldboy君)、急に気弱になる。
不得意な事、数々あれど、根っからの「不戦論者」である彼の一番の不得意種目である。
君子でもないが「危うきに近寄らず」は彼の主たるモットーの第一番目をなすものである。

 嬌声の中から「アミダで決めよ、それが一番公平やろ」の大声が、耳にはいる。
今晩のお相手を、アミダくじで決めようとの事である、
見ていると、この提案に、みんな同意らしいが、部屋に入る様子は見えない。
どうもこの場でクジをやるらしい。

 ファン君、oldboy君の後ろに回り、押し出そうとする素振りである。

対面(といめん)の迷惑団体が、一層声を張り上げ、掛け声をかけ始めたのである。
どうやら準備ができアミダくじが始まったらしい。

 oldboy君、この一層の喧騒と「ホイホイ・・・」の掛け声に押されるかの様に意を決したのである、まさか死ぬこともないだろう、それにこれからもこの慣れ親しんだホテルのスタッフに、あの人、「あかんたれ」」と影で後ろ指を指されるのはもっと苦痛である、との思いがさせたのかも知れない。

 決心すると、逆に義憤が生まれ、即、彼等の方にスタスタと足早に近づいて行く。
この行動、自分でも信じられないoldboy君である。

 「あんたたち、この廊下は君たちだけのものではないんよ、やめろとは言わないが、せめて部屋の中で遊んだらどうだ、あそこにいるベルボーイ達の表情、見て見ろ、あの視線」的なことを、oldbou君、言ったようだ。

 すると、男達の中の一人が,顔を斜にしながら、oldboy君にツッカカリ両襟首を持たれることになったが、何故か怖くはなかった、これが「肝が座った」状態と言うのだろう。


 この時である、この集団の内の年配格の男が「こらxxxやめとけ」と襟首をつかんだ若者をしかりながら「みんなわしの部屋に入れ」と仲間を語気荒く恫喝したのである。

 この日、この後(あと)、井野さんと張さんの待つ「新村カルビー店」へ急ぐことに。


翌日の夜、ルームサービスでコーヒー&ハチミツシロップつきのパンケーキが届く、勿論、ただである。
ファン君(ベルボーイ)の精一杯のoldboy君へのお礼の意味である。

                 了  

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