oldboy-elegy (44)パソコンなど電子機器の存在しない時代、そして就職・〇〇工場労務課での実習から、当時の世相を感じて欲しい
今日の記事は、2019・07・11のoldboy-elegy(8)「初めて
社会に出て、働き始めたころの話」をリライトしたものである。
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まえがき
便利さを、とことん追求すれば人は幸せに成るのだろうか?ある種の
無駄は心の安寧と余裕につながるのではないか、そのような感覚を大切
にブログを書きたいと思う。
上記の文言(もんごん)はoldboy-elegyくんの、「プロフィール画像」
の添え書きで、すこし大仰に言えば、記事を書く理由とも命題とも言える
ものである。
どんな記事を書く時も、思いの多寡はいろいろあるが、これを忘れること
はない。
結論を急がず、見たもの、体験したこと、感じた事を淡々と書きたいと
思っている。
今では全てが、昭和のアナログ的幻影に包まれたような不思議な感覚に
嵌(はま)る。
しかし、これらは確かな現実であったことは間違いない。
大学4回生(関西風の呼び方)の夏休み近く、oldboy-elegy君いまだに就職
先決まらず。
決まるも決まらないも、就職試験なるもの,1社も受けていない。
「ああ~じゃまくさいなあ~」の気持ちが優先しているのである。
今の世ならこんなフトドキものは「即死刑」に値する。
母子してずっと貧乏してきた割には相当の ノー天気野郎 であった。
一時、留年も考えたが、家や母の事を考えればこれは出来ない相談だと
改心、ゆえ、この妄想はただ今、払拭中である。
意味のない留年はキッパリ?と捨て去った。
卒論の構想も、ほぼできあがっている。
卒業に向かって 「ヨ―ソロ・視界よし」
★1
oldboy-elegy君、ついに、就職を決める
oldboy-elegy君、秋のある日、その姿を大学キャンパスに見ることが
できた。
就職課の通路の掲示板をのぞきに来たのである。
彼にしては珍しく本気に見えるが、どうであろう。
しかし内心「やだな~、じゃまくさいな~」が本音であるのは変わらない。
そんな中、先週から見ている募集案内が気にかかる。
従業員数700人弱、資本金1億弱、業態は繊維メーカー、どうも同族経営の会社
らしい、会社の名が社長と同じ、設立年から見れば2代目いや3代目かなと推察。
出世、本当に本当、考えた事もない、oldboy-elegy君らしく自然体で生存
できたらOKぐらいにしか思ってない。
そのまま就職課の事務所に入り、簡単な推薦状と卒業見込み書を貰い、その
会社に送付、そして今日が入社試験の当日である。
10人少々の学卒者、中には東京の大学生も数人、彼等は関西出身の人らしい、
就職を期に帰郷するのであろう。
試験は作文と面接の二つだけ。
作文は特別の縛りもなく、自由題で「自問・自答」と言うことであった。
内容はむしろ仕事のことから離れてくれたほうが良いとのこと。
書いた文章は、oldboyくん、今でもおよそ覚えている。
「為政者が形容詞を多く使い始めたらご注意を・・」こんな感じの題であった。
※為政者(いせいしゃ) 政治を司る人、または権力者
「美しい国、悠久の歴史、など、政治家や権力者が政治と関係のない形容詞を
多く使い始めた時はご注意を」と皮肉っぽく綴ったものである。
内容が内容だけに、多分、「受かる訳がないわな」と思ったのは、当然の事。
それがどっこい受かってしまったのである。
あなたはまだ「青い青い」と言われている感じがしたものである。
妙に気に入ってしまう、単純なoldboy-elegy君がいる。
入社日が学卒者に限り、なんと4月の中旬、大学の友人たちは3月中に初出社、
少し不安を感じるぐらいおそい出社日である。
おまけに研修期間がおよそ10か月、配属は来年だそうな、またまた戦力外
通告?。
なに故10か月も研修を、大企業でもあるまいし、と思ったのだが、やがて
その実態が判明。
★★2
〇〇工場労務課での研修
女子寮屋上の物干し場のメンテナンス
(もの干しロープの張直しなど)の手伝い
学卒新入社員は各事業所、すなわち、2つの工場、本社を含む支店営業所の全て
を回るのである。
工場実習中は左傾のような「工務服」で、
色は、もっとそれらしい色「グレー」だった。
実は研修期間中、〇〇工場・労務課での研修が一番興味深かった。
以下、ここでの研修内容を中心に記述していく。
時代の雰囲気を感じ取ってもらえれば嬉しい。
労務課長や課員の下での研修である。
この工場には約400人前後の女工さんが勤務していて、そのうち半数以上が
工場敷地内の寮住まいである。
※女工さん この言葉、「女工哀史」などに使われた感覚のものではありません。
差別的用語とは一線を画したものとして使用している事を含みおきください。
基本的に朝は座学で午後は実習と言う事になっていたが、初日から予定変更?
各女子寮の屋上の物干し場のロープの張替えをする事になっているらしい。
工場の工務課からの応援人員も借りての作業となる。
ある意味、「労務課に置ける、実習」であることには変わりがない。
あとロープだけでなく、屋根部分にあるスレート板の取り付け部分の保守強化
や気が付いた部分の修理など、結局午前中いっぱいの作業となった。
今日は作業終了まで「洗濯、物干し禁止」との事。
「満艦飾の女子の洗濯物が干されている場所に入ることは問題だからね」と
Y課員。
oldboy-elegy君何故か妙に納得、「一生寮監でもいいかな」の思いがチラチラ。
すぐに気が変わるのが彼の特性、ほんに軽いやつ。
「数字で追われる職場より俺向きかも」
誰かが「この労務課も新人補充の予定、あるのですか?」と問う。
「いやー、それは知らないよ、マッチングの問題かな、君たちの誰かがここを
希望することが出発点で、それからは本社の考え次第、」との事。
「まあ憶測で言ったらダメなんだろうが、会社としては、非生産部門に大事な
新入社員を回す余裕など、どうだろう無いのと違う」と課員のYさん。
内心すこしがっかりのoldboy-elegy君、がいる。
女子の工場内での服装である。
ただし、色は男子と同じく、グレーであった。
キャップ’(帽子)も、もちろんだが、この
イラスト画像の娘さん、髪の毛の後ろが、帽子
から はみ出しているが、これは厳禁である。
なぜなら、工場の業態が紡績系で、それ故
スピンドル(回転)系の動きをする機械が多く、
頭髪を引き込まれる恐れがあるためである。
★★★3
この女子寮で事件発生、一般寮生と夜間高校生との間で?!
「去年の今頃は大変だった」と課員のYさん、少し遠くを見る 目。
「じつはここの女子入寮者の内20人チョットが近くの夜間高校に通学して
いるんよ、ある日、屋上の物干し場に彼女らのセーラ服4着が側溝に捨てられる
事件があったのだわ」と話し出す。
労務課としても犯人捜しした訳でもなく、寮役員、高校通学生、労務課、
ときどき工場長も出席しての話し合いを計5,6回ぐらい持ったとのこと。
原因と犯人、それを追求したところで、意味のないことはハッキリして
いる。
始めは相当険悪状態だったのが少しづつ双方ほぐれてきて、犯人捜しも
しないまま「手打ち式」に、労務課としてはこの席ではほとんど聞き手に
回ったのが良かったと言うより、これしかなかったのよ」とYさんしんみり。
「いろいろ苦労はあるんだろうが、こんな人間的な職場で、定年まで勤めるのも
アリかな」とoldboy-elegy君、思ったのも事実である。
★★★★4
労務課でのプラス・アルファの仕事。中国地方、山間部の町の
温泉旅館でのこと
これは労務課員のYさんからの頼まれ仕事で、正式な実習とは違うらしい。
「oldboy-elegyさん、今度の土、日、予定あるの?」
「特別にはありませんが、何か?」
「×××県の○○へ出張なのよ課長も一緒に一泊で、失礼だが、(荷物持ち)
がてら同行お願いできない?」とYさん。
特別用事があるわけでもなし、「分かりました、僕で良けりゃ」と即答。
荷物の中身は、写真、手紙、金一封、などで、8ミリ映写機、幻灯機、
おみやげ等おおかたの荷は先送りしているとのこと。
九州離島の〇〇と中国地方の〇〇には、この会社の労務出張所が置かれて
いるとの事。
つまり女工さんの就職募集の為の最前線基地なのである。
しかしこれらは会社の労務出張所ではあるのだが、看板を掲げ、会社の
人間が常駐しているわけでもない。
多くは、土地の教育関係の名士(退職した元校長や教頭)などの人脈を
通じて就職希望者情報を得、勧誘、斡旋していただくのである。
なにやら危なっかしい話であるが、もし会社のマイナス情報が発生すれば、
たちまち人員の確保は難しくなる。
その上、地元名士さんにも迷惑をかけることになる。
慎重にならざるを得ない、仕事でもある。
ただ近年、日本経済が活況を呈すればするほどに、こう言う形での人員
確保は難しくなりつつあった時代でもある。
oldboy-elegy君、おそらく学校におれば、この様な現実を知らないまま、
目にすることもなくノー天気に過ごしていたのだろう。
これでお分かりになったと思う。
そう年に一度、地元の温泉旅館などへ近辺出身の女工さん達の親、兄妹等、
近親者を招き、ちょっとした宴会を開くのである。
会社は、預かっている娘さん達の近況報告をするのがこの催しの趣旨でも
ある。
当日、親、兄弟、じっちゃん、ばっちゃんから、はたまた親戚と称する
多くの人たちの縁者が集まり盛況であった。
有名でもない我々の会社、でも真心と誠意でもって貴方たちの娘さん、
お姉ちゃん、お孫さんを預かっていますよ、と言う口コミ期待のアピールの
場なのである。
労務課員のYさん大忙し、持参したアルバムから我が娘の写真見つけて、
焼き回しのリクエストの照合とメモに追われている。
Yさん「まずは寮生なら写真を見ればどこ出身の誰それと言えるはず、と
胸を張る。
もうこうなれば、利益追求の為の会社組織ではあるが、今の彼、そのことを
超越している、ある意味幸せな人でもある。
しかしその強い思い入れのため、その人たちと会社との間での軋轢に苦悩する
こともあろう事は想像に難くない。
このことの話はYさんとはしていない。
それはそれ、今は汗をかきかき親御さん達の写真のリクエストに応じるYさんを
見てoldboy-elegy君、少し目頭が熱くなる。
こういうことにはoldboy-elegy君すこぶる多感である。
★★★★★5
給料日、工場の門前に多くの人が参集、一体何が?
毎月25日は給料日である。
銀行振込ではない、明細書とともに現金の入った給料袋を手渡し、受領印を
給料台帳に押捺してもらうのである。
この日に限って工場の門外で起こる定番の現象がある。
これが推察できれば大した人である。
4~50人はいるだろう、人の群れである。
年恰好は千差万別、幼児を連れた母親らしき人もいる。
チンピラ風のあんちゃんもいる。
工場の終業のサイレンがなると、門外の群衆がこれを合図に門前に集まって
くる。
ここに集まる人たちは、女工さん達の関係者たちである。
多くは、彼女たちの親か、その縁者である。
家計へのイクバクかの金銭的援助をしているのだろう。
中にはお金を、強引に無心するものも当然いる。
※無心する 金銭を無遠慮にねだって得ようとすること
ならば工場の門前で待ち受けるのが最善の方法である。
時間も場所もここならはっきりしているし逃すことはない。
なんせ、スマートフォンも携帯もも無い時代である。
やがて頑丈な鉄骨で作られた巾10メートルほどの門扉がしまる。
出入口は門衛所の脇の小さな出入り口だけ。
ただ門扉も人が出入りできないだけで内、外は丸見えである。
大きな声での罵り合いも、たまさかに、あるとのこと。
これを門内の衛所脇からじっと心配そうに眺めている人がいる。
労務課員のYさんである。
★★★★★★6
あとがき
驚いた事に事務・営業職なども、出勤・退勤時のタイムカードは無かった、
担当上司の机上に置かれた退出勤簿に押印のみ、それも女性事務員Kくんに
三文判を預けておき、外出先から「ここから直帰します、ヨロシク」でOKで
あった。
良いか悪いかは別。
組合は二つの上部団体に加入?
工場など現業部門は共産党系、本社を含む営業・事務職は社会党系と、
同じ会社に2組合が存在、それも後に、上部団体をヤッサモッサの末、
脱退、上部団体なしの単独の企業組合として、再発足した経緯がある。
営業職も時間外労働は基本禁止、時間になると照明が落とされる、
どうしても必要なら、上司に申請、許可を受ける必要があった。
土曜日は、隔週、半ドン(おひるまで)で、確実に履行されていたし、
サービス残業なる言葉、oldbboy君、聞いた事もなかったが。
30分毎に時間外手当が支給されていたことにも驚き、この程度の中小企業と
してはマアマアの待遇ではなかったろうか。
半世紀経ての今の労働条件と比較しても通用するのでは?と思ってしまう。
世間知らずのoldboy-elegy君としては他の会社の事情は知らない。
今日は、たくさんのお人の顔と名前を想い出した。
なぜか「こいつ!」と思う人は一人もいない。
これら記憶の残影の中の人達、全て、笑顔の良い表情なのが不思議である。
遠くに過ぎ去った過去の残影の中とは言え、まさしく現実の世界での
出来事であったのは間違いない。
時代はパソコンやスマートホンが世に出るズットズット前のことである。
では では
了
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