oldboy-elegy のブログ

ずいぶん長きにわたりグータラな人生を送ってきたもんです。これからもきっとこうでしょう、ハイ。

(雑感・雑記帳 NO.6) あの外国人の女性に謝っておきたい。茜さす晩秋、夕暮れ時の京都、およそ50年前の事。 by oldboy-elegy

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茜さす晩秋の京都、北から南に向かう市電からの景色。実際にはあり得ない情景ではあるが、雰囲気だけは伝わる思う。

   タイトル画像の説明文に「実際にはあり得ない情景ではあるが」と書いた理由とは、
この市電の路線は烏丸(からすま)線と言う、京都市街の中心を左右に分断するかの
ように北から南にほぼ一直線に走っている。
途中御所があり、これが尽きる丸太町あたりでわずか東に振られ、また真っすぐに南下、京都駅近くで、今度は東本願寺さんの威光で東に大きく膨らみ、そのまま京都駅前に達する路線である。
つまりこの路線に乗っている限り、茜さす雲や市街地はあっても山など見えないのである。
四条烏丸の交差点あたりから東を見れば山は見えるかも知れないが茜さす、夕方の景色は無理である。

 ※烏丸はカラスマと読み京都人はカラスマルとは言わない。

 
oldboy君、しきりに「茜色に染まり、茜色に輝く情景」にやたらにこだわっていらっしゃる。
この気象的条件がもし無かったなら、このブログ記事も無かったはずである。

 今日から三日連続で塾での講師の仕事が待っている。
基本、週末に集中的に時間割を組んでもらっている、今日は6時から9時までの3時間が予定されている。

 
従って5時30分あたりには塾の教室には入りたく思っている。

数人の学生仲間に「今日バイト、ワリー」と声をかけ、足早に市電乗り場に急ぐ。
塾の仕事のない時など高級タバコ「ヒライテ」を手みやげに誰かの下宿に留めてもらい、最近憶えてきた麻雀などをすることもある。
因みに「ヒライテ」とは世間では「ハイライト」と言うらしい。

 校舎を出て真っすぐ西門に向かう。
もうこの時点で西の空は近場の建築物をシルエットに茜色に染まっている。
タイトル画像の山を建築物のシルエットに置き換えただけで、まことにこの画像の雰囲気なのである。

 ここでもう一度「茜色の空と雲」の画像を脳裏に焼き付けて次に読み進んで欲しい。

 すぐに濃グリーンと薄い茶色のツートンカラーの市電が、前部と後部をヨタヨタ左右に揺らしながらやって来た。

狭い市電の乗り場も学生でほぼ一杯の状態である。

 当時まだ、京都に地下鉄の無い時代で、市電かバスのどちらかである。
乗客の殆んどは学生で占められている。
車内の進行方向の右側、つまり吊革を持つ西側の人は窓外からの茜色に輝く晩秋の色と同色に染め抜かれる事になる。

 oldboy-elegy君の左前すぐに外国人の夫婦らしき二人ずれが見てとれる。
当時いくら京都と言えども西洋圏の外国人が、ましてや夫婦だけで市電に乗っていることなど珍しい光景と思うがどうだろう。
旦那に比べて奥さん、随分と恰幅がよい。
奥さんの毛髪は茜に染まった外光を受け赤く見える、が茶色にも見えない事もない。
顔だちは真後ろからでよく分からない。
あんまりじろじろ見るのも失礼かと思いそれきりになり、そのまま烏丸4条あたりにきた。
そこである程度の乗客がおりて行ったがその西洋人は乗ったままである。

 oldboy-elegy君ここで見てはいけないものを見てしまうのである。

茜色に輝く暮色の中に、忽然と彼女の顔半分がシルエットとなりあとの半分は陽光にあたった状態でくっきりとその全体像があらわになったのである。

 夕日に照らされたそれはまさしく、西洋人のもので高い鼻梁に奥の目が隠れていたのだが我々が少しは見慣れているアメリカ人的白人の雰囲気の顔立ちでもない。
いわゆる地中海東部、北部の人を代表するギリシャ系のものである。

 話の本筋はここからである。

 その端正な顔立ちのシルエットと茜色の境界に、顎から鼻腔下、眉間までもが毛でおおわれていたのである。
その毛も剛毛とは言えないまでも、そこそこの濃い影を落としている。
眉と眉の間が明瞭ではなく、一本に繋がっているように見えたのである。

 ここで固まったのが誰あろう、oldboy-elegy君である。
すべて見なかったものとして、知らんぷりすれば良かったのが、それができなったのである。
もっと最悪なのは、彼女と一瞬のことではあるが目が合ってしまった。

 彼女はoldboy-elegy君のドギマギぶりを感じて事の事情を察知したのだろうか、そこが一番気がかりなことである。
金色に輝く毛と影とのシルエット、oldboy君、今でも忘れることのできない一瞬の残影である。

 ずっと後の事であるが、何かの本で読んだことがある。
むかしのラテン系(ギリシャ人を含む)の人たちは体毛などには無頓着でおおらかであった文化があったそうである。
因みに現代の日本人は真逆なのかもしれない。
男性も一生懸命すね毛を始め、ムダ毛?を剃り落とす人がいると聞く。
この事に就いてoldboy君が何かを言うには少し歳をとりすぎてしまった。
ただあのギリシャ人(自分で勝手に決めた)の御夫人がこちらの表情を読み取り、oldboy君がなににギョットしたのかをもし理解されていたのなら、本当にごめんなさい。

 塾までの道すがらその事が気になり、oldboy君少々元気がない。
茜色に輝く空は、闇に侵食されて今はもうない。


 そして50年、ご存命の確率は極めて低い。

                 了
              oldboy-elegy

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